非国民で何が悪い

朝ドラの「エール」で、ヒロインの音が音楽挺身隊で「非国民」と呼ばれるシーンがあった。音が挺身隊にいる理由を問われ、「慰問先の人が笑顔になってほしい」と答えたのに対して、挺身隊のリーダーは「音楽は軍需品」と言い、音を「非国民」と呼ぶ。

戦時中の大勢をしめる意見はリーダーの側である。

今の時代でこそ、人の感じ方はそれぞれで、音楽を聴いてどう受け取るかは本人の自由などと大手を振って言えるが、戦時中には通用しなかった。

同調圧力の強い社会である日本では、思想統制までされる時代に言いたいことが言えるわけもない。異端の意見を言えば、大衆に袋叩きに会う。そこは今でも同じだ。

以前に比較的フェアな環境に長くいたこともあり、日本の保守的な社会に入って、日本の社会が如何に病んでいるかを実感することがある。官僚などで不正、隠蔽、情報改ざんがされることがたまにニュースになるが、日本の旧態依然とした社会の中では隠蔽、情報改ざんは常に行われていることを感じたことがある。

事実を正確に集めて、それをフェアに判断をして、対策を打てば効率的に物事は進むと思うのだが、どうもそうはならない。

お客様や上層部が理にかなってない無理難題を言う。現場はそれを必死に実行しようとするが、元々無理なことはできない。そうすると、自分の立場を守るために、情報改ざんや隠蔽のような情報操作を含めた手段で無理に乗り切ろうとする。それをすべての階層で、すべての部署でそれを始めることすらある。お互いに問題の押し付け合いをする際には実際にそれが起きる。

後生大事にまとめ挙げられた資料は情報操作に、情報操作が重ねられて、一番上に上がってくる時点では、意味不明の代物となっている。効率が悪いことこの上もない。全体の利益よりも、個々のセクションの利益を優先した結果だ。

いたるところに問題があるので、誰の責任かもわからない。強いて言えば、無理難題を丸投げする上席の責任である。隠蔽や改ざんは不正ではあるが、下が頑張ってもできないような無茶振りをする者の責任は大きい。

それが、政治や官僚だけでなく、大会社やその取引先でも大小を含めれば常に行われている。

私はそういう事に違和感も罪悪感も感じるし、それを続けて不効率を野放しにする頭の悪さが理解できない。しかし、どうやらこの国では多数派がそうなっていいる。もちろん、それを牽引する人だけでなく、いやいや引きずられている人も多数いる。

官僚や経営者にはサイコパスが多いというが、良心や罪悪感を生まれつき持たず、息をするように嘘をつくような連中が牽引をするのだろうが、そんなのは数%しかいない。それが正義だとか、それが必要悪だとか洗脳されている人がいかに多いか。

半沢直樹のドラマに出てくる悪役並のリアルキャラがそこら中にいるのである。

そして、「我々のやっているのは政治だ」とか、「情報戦をしているのだ」とか正当化する。そんな人はビジネスとは人を騙して、金を巻き上げるのだと言っているのと同じであると私は思うのだ。

異を唱えると「何を青臭いことを」「大人なら理解をすべき」「空気を読みなさい」などと強要をされる。戦時中の軍国主義となんら変わらない。

そんなことを言っている私も、上席や上位商流からの命令には従わざるをえない。報酬をもらっているからには、黒と言われれば白でも黒とせざるをえない。その結果、違和感を感じながら、命令に従うことになる。それを覆すには立場としてトップに立つしかないが、それが叶う状況にない。

私が普段関わることでそんなに大事になるようなことはない。でも、大事になるようなテーマであっても、発生メカニズムは同じである。ナチスのホロコーストは上層部が決めたことを問題意識も持たず粛々と行った結果、あの惨劇が起きることになった。

2-8の法則というのがあるが、物事は2割と8割に分かれやすいという。たとえば、良心に従うものが2割、良心に従わないものが2割、残りの6割は優勢な方に転び、どちらにも付く人たちである。

世の中には、「繊細さん」のように生まれつき良心の呵責を感じやすい人がいて、2割前後だという。もし、良心に従う人間が2割を超えて増え、良心を売った人間に比率が減るならば、6割の人間は良心に従う側に付くようになるだろう。

今の世の中は不正に対して風当たりが強くなり、ヒステリックにすらなる傾向があるが、もしかするとそんな変化なのかもしれない。

「繊細さん」というのは良心の呵責を感じやすく、生きづらさを感じやすい。決して楽ではない。しかし、そんな人が声を上げ始めると、不正をしてもなんの罪悪感も感じない人間が居心地の悪い社会ができるのではないだろうか?

時代によって人の意識は変革し、転換する時期がやってくるのではないか、そんなことを考えてしまう。

たとえ、多数派だったとしても、波動の悪いことがはびこるのは私は好ましくないと思う。

非国民で何が悪い。後の時代から見れば戦時中は非国民の方がむしろバランスが良かったのではないか。