初めての邪気との遭遇

私は20代後半になって初めて気がわかるようになった。それまではその手の見えない世界を全く信じなかった。

母が亡くなった際に、霊が見えるという介護士にドン引きしてしまったし、胡散臭く感じていた。ところが後から考えると不思議な体験というのは気が判るようになる前にもあった。

私が邪気に遭遇したことで大変よく覚えているのが、祖母の死の際である。後に 気功の師匠から祖母が悪霊的になっていて、両親の死期を早めることになったと聞かされた。

祖母はアルツハイマー症候群だったのだが、たぶんうつ病にもなっていたのだろう。死因は自殺であった。

小学生の頃のまだ寒くて暗い早朝である。電話がかかってきた。黒電話が激しく鳴るのだが、延々と鳴っている。電話機は両親の寝室の前にあり、母はいつもならなったらすぐに電話を取った。しかし、その時だけは延々と電話が鳴り響くのに電話が取られない。

布団の中でその電話の音が恐くて仕方がなく、下半身が冷たくなっていた。延々鳴った後に電話がチンッと切れた瞬間に、体の血行が戻って脚が温かくなることを感じた。そのまま、私は寝てしまった。

明るくなってからの事、母のバタバタバタという足音が聞こえて、「おばあちゃんが死んじゃったよ」と大声で起こされる。その日は通夜となるということで、親戚の家に出かけた。

あの電話が幽霊からの電話だとは思ってはない。亡くなる前に電話をしてきたのだろう。電話先の強い邪気がビンビンと伝わっていた。大変な闇であったと思われる。たぶん、あれが私は初めて感じた強い邪気だったのではないかと思う。

人が亡くなる際に、最後の意識が心残りとして残ることがあるのだが、それが十数年もの間残るのだとすれば、師匠が言うように悪霊化していたと言っても過言ではない。師匠はその時に言っていたのは生前に仲が良かったから両親の所に身を寄せていた、それが仇になってしまった。

生前、祖母は同居の叔母と姑嫁の中は最悪で苦労をしていた。その嫁本人に祟らないところが奥ゆかしい。生気を吸ってしまう存在というのは確かに体調不良を起こすので、割を食ったのがうちの両親である。

この話には続きがあり、かなりの時が過ぎて私が40代の頃、弟が言った。実はそのことは自分もよく覚えていて、暗い中で怯えていたと。弟は小学校に入ったぐらいの時期だ。覚えているのはよほどの強い印象があったからだろう。その電話は確かにかかってきたのだと何十年かぶりにわかったわけだ。そして弟も同じその電話に恐怖を感じていたとは驚きだった。

父方の祖母は陰気な感じのする大人しい人だったと記憶をしている。私が気功の師匠から、これが邪気ですと初めて感じたのも祖母の気、人生で目に見えないものに恐怖を感じたのも祖母の気であった。

しかし、私にとっては見えない世界に導くガイドの役を果たしてくれたのが祖母だと信じている。私は感謝をしている。